虫歯(う蝕)治療の現状と問題点

虫歯(う蝕)治療の現状と問題点

近年、歯科では、う蝕学、治療材料、接着歯学の分野において著しく進歩してきています。それらの研究成果をもとに虫歯治療法が開発され、エビデンスも蓄積されてきています。国民がいわゆる「8020社会」(80歳で歯を20本残す)を達成するためには、今までの治療「drill and fill」(削っちゃ詰め、削っちゃ詰め)からの脱却と、MI(minimal intervention)「最小限の切削により歯を温存する」の考え方による虫歯治療の普及が必要と考えられます。しかし、現実を見渡すと、旧来のパターン化した治療方法で歯が大きく削られたりしている場合が多々見受けられます。いわゆる虫歯治療と言っても、エヴィデンスに基づいて施されている場合も、そうでない場合もあります。いろいろな治療法が混在し、学生や臨床研修医の教育現場でも、また治療を受ける患者にも混乱や戸惑いが生じているのが現状です。歯科治療の根幹をなす虫歯治療におけるこのような混乱や保険点数の高低に基づく治療法の決定は、早急に解消する必要があると思われます。

エナメル質初期う蝕への対応(極初期の虫歯)
経過観察が重要です
細菌では、エナメル質に限局した虫歯は、う蝕リスクを低くコントロールできる場合には、削らないで再石灰化処置(フッ素塗布など)して、経過観察するという考えが受け入れられつつあります。小さな虫歯は、削ってはいけません。

象牙質う蝕(中等度の虫歯)への対応
象牙質まで進行した虫歯は、虫歯の進行・拡大が削る治療でしか停止できない、または、削る処置以外では、機能的・審美的回復が図れないと診断した場合に限って行われます。削る場合には、細菌が侵入し感染が成立した「感染象牙質」と細菌感染はなく再石灰化が可能な「う蝕影響象牙質」を鑑別し、感染象牙質のみを切削することが重要です。ただし、歯髄まで感染が始まっていれば、根管治療が必要になります。そうならないように早めに受診しましょう。

根面う蝕への対応
超高齢社会に入り、急増する根面う蝕の対応には大変苦慮します。その根面う蝕の対応には、大きな欠損がある場合には、従来通り感染部分を切削し、充填処置を行いますが、初期の根面う蝕には、削らないで、フッ素塗布などにより進行を抑制し、管理していくことが提唱されています。

※根面う蝕とは、歯肉退縮により、歯ぐきから歯根が露出し、そこに発生するう蝕(虫歯)です。歯根は、エナメル質に被覆されていないため虫歯になりやすいのです。